犬の胆嚢粘液嚢腫について
― 早期発見と適切な治療で命を守れる病気です ―
胆嚢(たんのう)は、肝臓で作られた「胆汁」という消化液を一時的にためておく臓器です。
胆汁は総胆管という管を通って、食事の際に十二指腸へ分泌され、脂肪の消化を助けています。
胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)は、この胆嚢の中で胆汁が通常のサラサラした状態ではなく、ゼリー状に固まってしまう病気です。
この状態が進行すると、
- 胆嚢炎
- 総胆管閉塞(胆汁の通り道が詰まる)
- 黄疸(体が黄色くなる)
- 胆嚢破裂
- 胆汁性腹膜炎
といった、命に関わる状態に発展することがあります。

原因と発症しやすい背景
はっきりとした原因はまだ完全には分かっていませんが、これまでの研究では以下の関与が指摘されています。
- 加齢による胆嚢の運動低下
- 高コレステロール血症
- 副腎皮質機能亢進症
- 甲状腺機能低下症
- 糖尿病
特に高齢の小型犬(チワワ・シーズーなど)で多くみられることが知られています。
症状について
症状が出る場合は、
- 食欲不振
- 嘔吐
- 元気消失
- 下痢
- 腹痛
- 黄疸
などがみられます。
特に注意が必要なのは、
「軽い体調不良に見えても、急激に悪化することがある」
という点です。
胆嚢が破裂してしまうと、胆汁が腹腔内に漏れ、急速に命に関わる状態になるケースがあります。
〜実際の症例紹介〜
12歳 チワワ(避妊メス)
「昨晩から何度も吐いている」「食欲がない」とのことで来院されました。
来院時はお腹を痛そうにして、うずくまっている状態でした。
検査結果
血液検査
- GPT(ALT) 508 U/L
- ALP 1560 U/L
- GOT(AST) 214 U/L
- GGT 16 U/L
- 総ビリルビン 2.1 mg/dL
- CRP 17 mg/dL
肝酵素の上昇に加え、黄疸および強い炎症反応が認められました。
特にALPの上昇はこの病気でよくみられる特徴です。
超音波検査(エコー)
胆嚢内に特徴的な
「キウイフルーツパターン」
を認め、胆嚢粘液嚢腫と診断しました。

また、総胆管の拡張も確認され、胆汁の流れが悪くなっている(閉塞の可能性)状態でした。
治療の考え方
胆嚢粘液嚢腫の治療には大きく2つの選択肢があります。
① 内科治療
- 点滴
- 抗生物質
- 利胆剤
- 低脂肪食
※ただし、総胆管が完全に詰まっている場合は利胆剤は不適となります。
② 外科治療(胆嚢摘出術)
胆嚢そのものを摘出する手術です。
以下のような場合は、手術が強く推奨されます。
- 症状が出ている
- 胆嚢の状態が悪化している
- 総胆管閉塞が疑われる
- 破裂のリスクが高い
- すでに破裂している
本症例の経過
まずは飼い主様と相談し、内科治療で慎重に経過をみることになりました。
しかし入院2日後、
- 肝酵素のさらなる上昇
- ビリルビンの悪化
が認められ、胆嚢破裂を起こしました。
そのため同日に緊急手術(胆嚢摘出術)を実施しました。
手術内容
手術では、
- 胆嚢摘出
- 総胆管へのカテーテル挿入・疎通性の確認
- 胆管内の洗浄
- 腹腔内の洗浄
を行いました。

△摘出した胆嚢
胆嚢粘液嚢腫は、胆嚢の壁から異常に粘液が分泌されることで起こると考えられており、
胆嚢を摘出することで再発リスクを大きく下げることができます。
術後経過
胆汁性腹膜炎および膵炎を併発していましたが、順調に回復し、元気に退院されました。
この病気で最も大切なこと
胆嚢粘液嚢腫は、
- 無症状で進行することがある
- ある日突然、急激に悪化することがある
という特徴があります。
特に胆嚢破裂後は死亡率が大きく上昇し、
手術の周術期死亡率は約10〜30%と論文での報告もあります。
一方で、破裂する前に適切なタイミングで手術を行えた場合は、良好な経過が期待できます。
当院の特徴
阿佐谷ペットクリニックサテライトでは、グループ病院との連携により
- 待ち時間の少ない迅速な診察
- その場で行える腹部エコー検査
- 必要に応じたCT検査の連携
- 外科対応を含めた迅速な治療判断
により、胆嚢粘液嚢腫のような緊急性の高い疾患にも早期対応が可能です。
飼い主様へ
「少し元気がないだけ」
「ちょっと食欲が落ちただけ」
そんな小さな変化の中に、重大な病気が隠れていることがあります。
胆嚢粘液嚢腫は、早く見つけて、適切なタイミングで治療することが何より重要な病気です。
- シニア期に入っている
- 嘔吐や食欲低下がある
- 健康診断をしばらく受けていない
このような場合は、ぜひ一度ご相談ください。