胸腰部椎間板ヘルニア(IVDH:Intervertebral Disc Herniation)
椎間板ヘルニア(IVDH)は、脊椎(背骨)の間に存在する椎間板物質が変性・逸脱し、脊柱管内に侵入し脊髄や神経根を圧迫・損傷することで神経症状を引き起こす疾患です。
神経疾患のひとつであり、症状は疼痛のみから重度麻痺・排尿障害まで多岐にわたります。
椎間板ヘルニアの病態分類(ACVIMに基づく分類)

① Hansen Type I(急性型椎間板ヘルニア)
- 椎間板髄核が急激に逸脱し、脊髄を急性かつ強く圧迫
- 突然の疼痛、急速な麻痺進行を示す
- 軟骨異栄養性犬種(M・ダックスフンド、フレンチブルドッグなど)に多い
② Hansen Type II(慢性型椎間板ヘルニア)
- 椎間板線維輪の慢性的な膨隆による持続的圧迫
- ゆっくり進行するふらつきや不全麻痺
- 大型犬・高齢犬に比較的多い
③ 非圧迫性椎間板疾患(ACVIMで重要視される鑑別)
- ANNPE(急性非圧迫性髄核逸脱)
① 水和髄核の脱出
- HNPE(高速度非圧迫性髄核逸脱)
神経学的グレード分類(ACVIM準拠)
IVDHの治療選択・予後評価において、神経学的グレード評価は極めて重要です。
| グレード | 状態 |
|---|---|
| Grade 1 | 疼痛のみ(神経脱落症状なし) |
| Grade 2 | 不全麻痺(歩行可能だがふらつきあり) |
| Grade 3 | 強い不全麻痺(歩行不可・起立は指示すれば可) |
| Grade 4 | 麻痺(起立歩行不可能)、、浅部痛覚消失 |
| Grade 5 | 深部痛覚消失、排便・排尿障害 |
特に 深部痛覚の有無 は、外科治療後の回復予測に強く関与します。
診断・検査
1. 神経学的検査
- 病変部位(頚部/胸腰部)の推定
- 神経機能不全の評価
2. X線検査
- 椎間板の石灰化や椎間板腔狭小化などの補助所見
- 確定診断には不十分
3. 血液検査
- 他疾患の除外
- 全身麻酔可否の評価
4. MRI検査
以下の理由から、MRIを最も重要な検査と位置付けています。
- 脊髄圧迫の有無・程度
- 逸脱物の位置・範囲
- 脊髄浮腫・出血などの実質損傷評価
※診断的感度はMRIが最も高く、脊髄造影の高い副作用リスクを回避できる利点

この症例ではMRI検査にてT13-L1に圧迫所見を確認しました。
5. CT検査
- 石灰化椎間板の評価に有用
- 症例によってMRIの代替または補助として使用
治療方針:内科治療と外科治療
内科治療(保存療法)
適応
- Grade 1〜2
- 神経症状が軽度かつ進行性でない
- 明らかな重度脊髄圧迫がない場合
内容
- 厳格な安静(ケージレスト)
- 疼痛管理(鎮痛薬の適切な組み合わせ)
- 状態安定後の段階的リハビリテーション
※再発リスクがあることに注意⚠️ 内科治療中に神経症状が進行した場合は、速やかに外科治療を再検討する必要性があります。
外科治療(脊髄減圧手術)
適応
- Grade 3以上
- 進行性神経症状
- MRIで明らかな脊髄圧迫が確認された症例
- 再発例、内科治療反応不良例
目的
- 脊髄を圧迫している物質を除去
- 二次的脊髄損傷の最小化
- 神経回復の可能性を最大化
主な術式
- 胸腰部:片側椎弓切除術(Hemilaminectomy)
- 頚部:Ventrolateral slot など
※深部痛覚のない対麻痺の犬において、内科的治療による回復は著しく低く進行性脊髄軟化症の発生頻度も高くなるという報告あり。
予後に影響する因子
- 内科的治療を行っている犬で臨床兆候の進行がある場合
→神経学的徴候の悪化をモニタリングするため、1〜2日間の短期間入院を考慮
- 外科治療ができない場合
→進行性脊髄軟化症の臨床的証拠がない限り、全ての重症度グレードにおいて内科的治療を試みるべき
当院での対応方針
当院では、神経専門科による治療に基づき、神経学的検査とCT,MRIといった高度画像検査を組み合わせてIVDHの正確な病態評価を行っています。
また当院では経皮的レーザー椎間板髄核減圧術(PLDD)も実施しています。PLDDとは、病変部へのレーザー照射によって髄核を蒸散・空洞化させることで椎間板内圧を下げ、脊髄への圧迫を軽減する安全で低侵襲性の外科療法です。
症例ごとに内科治療・外科治療の適応を慎重に判断し、保存療法から外科的減圧術、周術期管理、リハビリ外来によるリハビリテーションまで一貫した治療方針を提案しております。
また重症例や進行例においては、治療の緊急性や予後についても十分に説明し、飼い主様と相談しながら最適な治療選択を提供できるよう対応させていただきます。
神経痛や歩行困難などの症状がある場合は、当院にぜひご相談ください。
